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四日市簡易裁判所 昭和59年(ハ)25号 判決 1984年7月10日

原告・反訴被告(以下「原告」という。) 東急信販こと 小林太郎

右訴訟代理人 磯崎日出国

被告・反訴原告(以下「被告」という。) 乙山花子こと 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 渡辺伸二

同 松葉謙三

同 谷口彰一

主文

一  原告の本訴請求を棄却する。

二  原告は被告に対し、金三〇万円及び昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ全部原告の負担とする。

五  この判決は、第二項につき被告が金一〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告は原告に対し、金一五万円及びこれに対する昭和五七年一二月二八日から完済まで年三割六分の割合による金員を支払え。

2 被告は原告に対し、督促手続費用金三八六〇円を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文一項同旨。

2 本訴訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は被告に対し、金三五万円及びこれに対する昭和五九年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 反訴訴訟費用は被告の負担とする。

第二主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告は訴外乙山春子(以下「訴外春子」という。)に対し、昭和五七年三月一日金一五万円を、弁済期昭和五九年二月三〇日、利息日歩二八銭、三〇日毎支払、遅延損害金日歩三〇銭、利息の支払を怠ったときは期限の利益を失う約定で貸渡した。

2 被告は原告に対し、昭和五八年二、三月頃訴外春子の右債務につき連帯保証した。

3 訴外春子は、昭和五八年一月二七日払の利息の支払を怠り期限の利益を失った。

4 よって、原告は被告に対し、貸金元本金一五万円及びこれに対する期限の利益喪失の日である昭和五八年一月二八日から完済まで利息制限法所定の年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1項の事実は知らない。同2項の事実は否認する。同3項の事実は知らない。

三  抗弁

仮に、被告が原告に対し、原告主張のとおり訴外春子の債務につき連帯保証する旨の意思表示をしたとしても、右は原告の強迫によるものである。すなわち、被告の子訴外乙山一郎の妻である訴外春子が原告を含め多数のサラ金業者から金銭を借受け、借金が多額となり、訴外春子が失踪したので、原告は被告方に電話を何度もかけた上、被告方に押しかけ、「お前の息子が保証人になっているから支払え。」「とにかくここにサインしろ。」といって脅したので仕方なく応じたものである。よって、被告は原告に対し、昭和五八年一二月一四日の第一回口頭弁論期日において取消の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

(反訴)

一  請求原因

1 被告の子訴外乙山一郎の妻訴外春子は、多数のサラ金業者から金銭を借受けその返済に窮し、昭和五八年一月二三日家出をして行方不明となった。その翌日から訴外春子の債権者である多数のサラ金業者から被告方に一日に十数回もの電話による支払催促があった。当時被告は、新聞、テレビ等でサラ金業者の無法な言動を見聞きしていたので困惑し、恐怖感で夜も眠れない日が続いた。

2 そのような折の同年二月ころ原告の従業員磯崎が被告方を訪れたが、原告は、その前に被告に対し一〇回程支払催促の電話をし、「差押えする。」等と被告を窮地に追いつめていた。右磯崎は、午後四時三〇分ころ被告方を訪問し、次男の訴外乙山二郎が夜勤で出勤しなければならないから帰って欲しいと懇請したにもかかわらず、一時間以上も居坐り、「息子の一郎が保証人になっているから払ってもらわなあかん。」「保証人のサインとは違う。」「払わんと差押えする。」「お前は親やろ、払わんか。」等と被告がサインしなければ今にも殴りかからんばかりの気勢を示して被告を脅して畏怖させたため、被告は連帯保証書らしき書面に署名押印した。

3 原告は、その後被告に何回となく支払催促の電話をしたので、被告は、電話におののき不安な日々を送った。原告は、被告が支払命令に対する異議を申立てた後も被告に「裁判しやがって。」と嫌がらせの電話をして来た。

4 右のような原告の強迫行為及びその後の嫌がらせ行為により、被告が被った精神的損害を金銭的に評価すると金三〇万円を下らない。

5 被告は、本件反訴のため被告訴訟代理人らに対し弁護士費用として金五万円を支払った。

6 よって、被告は原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金三五万円及び反訴状送達の翌日である昭和五九年二月四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1項の事実は知らない。同2項中、被告が連帯保証の書面に署名押印したとの事実は認め、その余の事実は否認する。同3項の事実は否認する。同4項の事実は否認する。同5項の事実は知らない。

第三証拠《省略》

理由

(本訴について)

一  本件全証拠を検討しても、被告が原告に対し原告主張の訴外春子の債務につき連帯保証したことを認めるに足りない(甲第一号証の被告の署名押印の成立については争いないが、後記二2の通り、右署名押印は原告従業員磯崎の強迫行為によって被告が畏怖してなしたことが認められるので、被告について甲第一号証が眞正に成立したものと推定することはできない。)。

してみれば、その余の点について判断するまでもなく、被告が訴外春子の連帯保証人であることを前提とする本訴請求は理由がない。

(反訴について)

二1 《証拠省略》によれば、請求原因1項の事実を認めることができる。

2 《証拠省略》によれば、昭和五八年一月末か二月初ころの午後四時頃、原告の従業員の磯崎と思われる男が被告方を訪れ、被告に対し、こわばった表情で「春子ちやんが借りたからこれにサインしてくれ。」「少しずつでも払え。」「書いても書かなくても同じだ。署名してもらわねば困る。」などと拒めば何をするか分からない雰囲気で一時間位要求し、被告が最初「書きたくない。」といって署名を拒否したもののあまりにこわく、又書かないと帰りそうになかったので甲第一号証(借用証書)の連帯保証人欄に署名押印した。当時被告は、原告について誰からともなく一番恐しいサラ金業者で、取立も厳しいと聞いていたし、事実他の業者より取立がきつかった。以上の事実を認めることができる。

このように原告の男性従業員が債務者とは別に住んでいるその親の家まで押しかけ、女性である被告に強いて連帯保証人になるよう迫り、借用証書に連帯保証人としての署名押印を求め応じなければ何をするか分からない雰囲気で一時間位帰りそうにない態度を示して被告を畏怖させたのは強迫行為に当るといってよく、違法たることは明らかである。

3 《証拠省略》によれば、請求原因3項の事実を認めることができる。かような原告の嫌がらせ行為もまた被告に精神的苦痛を与えるものであって、違法たることはいうまでもない。

4 右2、3の事実によれば、原告の強迫行為及びその後の嫌がらせ行為により、被告が相当の精神的苦痛を被ったことは十分に推認でき、原告の右不法行為による被告の精神的損害に対する慰藉料は金三〇万円をもって相当と認める。

5 請求原因5項の事実を認むべき証拠がない。

(結論)

三 以上の事実によれば、原告の本訴請求は失当として棄却し、被告の反訴請求は損害賠償金三〇万円とこれに対する反訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五九年二月四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池本洋)

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